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冒険 & カヌーAdventure & Canoe

17 不登校学級の生徒たちが、「西湖」横断に成功

その年の10月、授業を終えた私は「富士五湖横断に挑戦してみないか。」と、生徒たちに声をかけてみた。 本校には市内の全中学校から不登校傾向の生徒たちが通う個別指導学級が設置されている。 その教室の責任者でもある私は、彼らとのふれあいをもつために週に1回国語の授業を受け持っているのだ。 すると期待通り数人の生徒が目を輝かせて「やってみたい。」と手を上げた。 実は以前に、ある不登校生徒の保護者から、「飼い犬と一緒なら学校に通うことができるかもしれない。」 と相談を受けたことがあった。私は即座に了承した。次の日、教室の生徒たちに呼びかけた。 「一人の生徒が学校に来れるかどうかの瀬戸際なんだ。教室で犬が君たちと一緒に授業を受けることを認めてくれないか。」と。 最初は驚いた生徒たちだったが、まもなく全員が賛成してくれた。一人の生徒が言った。 「僕は犬が嫌いだけど、その子のために協力します。」と。私はその優しさに心を打たれた。 この教室に通うのは、そのように気持ちの繊細な生徒たちばかりだった。 そのような生徒たちを元気づけるイベントとして、手作りカヌーによる湖の横断はうってつけだと考えたのだ。 次の日曜日、私の運転するワゴン車の屋根に1艇、島崎さんの愛車の英国製ジープに2艇、 計3艇のカヌーを積みこんで富士山麓を目指して出発した。参加したのは生徒が6名。保護者が2名、 担任を初めとする教職員が5名の陣容だった。距離は約80キロメートル。 高速道路を使用して約2時間である。昼食は湖畔のキャンプ場で親子ともども楽しくバーベキューを行った。 そしてそれが終わったあと、いよいよ湖横断に乗り出した。 ゴールは、はるか1キロメートル先である。幸い湖面はおだやかだった。 しかし薄いベニヤ板製の2人乗りのカナディアンカヌーは、慎重にバランスをとらないとすぐにひっくり返る。 生徒たちには学校のプールで一度練習をさせておいたので基本的なパドル操作はできるようになっていた。 それでも、呼吸が合わずなかなか前に進まない2人組がいた。転覆したら心臓麻痺を起こしかねないほど水は冷たい。 予定では40分くらいで対岸に着くはずだった。しかしその2人は、パドル操作の呼吸がどうしても合わず、 1時間以上も湖上をぐるぐると旋回し続けた。まだ半分の距離も進んでいなかった。 別の貸しボートで随行していた私はついに宣言した。「もう日が暮れる。今日はあきらめなさい。 ロープを投げるからそれにつかまって付いてきなさい。」と。だが驚くべき言葉を少年たちは口にした。 「いやだ、それじゃあ、なんのために来たのかわからないじゃないか。」と。その言葉を聞いた私は大変うれしかった。 そして徹底的につきあってやろうと思った。それからさらに時間をかけてついに彼らはゴールインした。 この達成感が大きな自信につながり、彼らの今後の人生の心強い応援歌となるのではなかろうか。
読売教育賞受賞『手作りカヌーで富士五湖横断』
1 全国ニュースで紹介されたカヌーの取り組み 2 校長着任時の学校の状況 3 荒廃の原因の考察
4 生徒と教職員の一体感のある学校を作りたい 5 若い技能主事と教育相談員の提案 6 校長室がキャンプ場に変身
7 プールでのデモンストレーション 8 カナディアンカヌーとは何か 9 作製そして完成
10 「西湖」の横断に成功 11 「特色ある教育活動予算」が認められる 12 学生ボランティアや卒業生も参加
13 ターゲットの生徒たちも参加する 14 マスコミの取材攻勢 15 グラスファイバー塗装に挑戦
16 盛大に「進水式」を開催 17 不登校学級の生徒たちが、「西湖」横断に成功 18 友情を確かめ合った「本栖湖」横断
19 卒業生が「山中湖」横断を断念 20 新入生が「山中湖」横断に成功 21 大雨の中「精進湖」横断に成功
22 ついに「富士五湖」完全制覇 23 荒れた学校の奇跡的な変容  
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冒険(カヌープロジェクト) ★ 2006年夏
カヌー製作編
★ 2006年夏
カヌー川下り編
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