
冒険 & カヌーAdventure & Canoe
13 ターゲットの生徒たちも参加する
ある日、昼休みに例によって、ダッチオーブンで炊いたご飯でにぎりめしを作り、
中庭の芝生の上で車座になって食べていると、3年生の男子生徒が5~6人自転車でやってきた。
実は彼らこそ私が一番カヌー作りに参加してほしいと考えている生徒たちであった。
勉強、部活動、趣味等なんでもいい。とにかく何か一つ輝くもののある生活であってほしいと願っていた生徒たちだ。
夏休みに入ってから私は、毎日のように彼らに電話をして、参加するよう誘っていた。
いきなり校長から電話がきたので驚いたのだろう。日ごろは教職員に反発している彼らが、
神妙に「時間があったら行きます。」と答える口調がほほえましかった。
だが、いざとなると、だれ一人として参加する者はいなかったのである。
しかし、校長の私がこのように声を掛けること自体が彼らの気持ちを軟らかくするであろうことを私は期待していた。
私たちを遠巻きにして眺めている彼らに向かって島崎さんが近づいて行った。
手に持ったお盆にはおにぎりが山のようにのっている。
驚いた顔をしながらも、うれしそうな声で礼を述べて彼らはほおばった。
一人が2、3個を食べ終えたころ合いを見計らって私がすかさず声をかけた。
「おにぎり1個につき1時間働くんだぞ。」すると彼らは「えーっ。」と不満の声を上げながらも素直に木工室に付いてきた。
そして実に真剣にジグゾーやかんなを使い始めた。だれもがいい顔つきをしている。
休みに入ってすぐに頭を茶色に染めてしまった生徒に私は和やかな口調で話しかけた。
「本当は茶髪の生徒は学校に入れてはいけないんだが今日は特別だよ。ところでいつその頭を元に戻すつもりだい?」と。
すると彼もまた穏やかな口調で答える。「お盆に田舎に帰るのでその前に元に戻します。」と。いい雰囲気である。
もちろん、自転車、私服、茶髪で登校した生徒を校舎内に入れるのは、教職員としては指導上のルール違反である。
一緒にカヌーを作っている姿を、生活指導に厳しい教員に見られたら苦情を申し立てられそうだ。
だが、本校の生活指導の現状は、服装の指導のレベルではなかった。とにかく、きっかけは何でもいい。
まずは彼らに学校に対する信頼感を持たせることが必要だと私は考えていた。
そもそも島崎さんや新田さんのカヌー作製プロジェクトの発想の原点はそこにあったのだ。