冒険 & カヌーAdventure & Canoe
7 プールでのデモンストレーション
夏休みに入って最初の火曜日。第1回カヌー教室にやってきたのは、
島崎さんが個人的に強く参加を呼びかけた3年生の男子生徒が3人だけだった。
私は少なくとも10人は集まるだろうと思っていたのだが、部活動や学習塾などがあるせいか出足は悪かった。
島崎さんが設計図を広げて作製手順を説明した。ところが生徒は早くもギブアップの気配だ。
「かったるいよ。設計図なんてどうでもいいからベニヤ板で四角い箱を作ればそれでいいじゃん。」
難しそうな設計図を見ただけですっかりやる気を失っているのだ。日ごろの授業での雰囲気とそっくりではないか。
そこで私はプールにカヤックを運んでデモンストレーションを行うことにした。
校長室に運んで組み立てておいたカヤックと、島崎さんの車の屋根に積んであったカナディアンカヌーの2隻をみんなでプールに運んだ。
そして船体を石けんできれいに磨いたあと、プールに浮かべ、生徒たちに乗り方を教えてやった。
私や島崎さんがそれぞれの船に手際よく乗り込んでパドルを操って見せると生徒たちの目が輝いた。
操り方を教えるとプールの水面で彼らは何度か転覆したが、まもなく慣れてきてすいすい漕げるようになった。
「どうだ自分たちで作ってみるか、そしてキャンプに行って湖横断に挑戦するか。」というと、
生徒たちは目を輝かせて「やりたい。」と言った。
スクールカウンセラーの新田さんがしみじみと言った。「プールでこんなことやらせる校長なんて聞いたことないけど、
生徒たちにとっては貴重な体験ですよね。」 と。