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元校長お勧め100冊Recommendation

中学生には早過ぎる31冊
中学生にはまだチョイ早いが大人には面白い、
大人でなければ話が分からない!、などなど大人が楽しむ本を紹介したいと思います。
書籍名 著 者 コメントなど
001 源氏物語 紫 式部 とてつもなく面白かった。
読みながら、千年前の人間も今の私たちの感受性と全く同じなんだとしみじみ思い知らされた。
現代トレンディドラマとしても十分に通用する異性への愛、嫉妬、憎悪等の悲喜劇が
ドラマチックに描かれているだけではない。
絵画、和歌、楽器、歌、踊り、衣装、作庭等々の文化論の深さと広さは驚嘆するばかりだ。
私は通勤時間を利用して読み終えるまでに数ヶ月をかけた。
インターネットの「青空文庫」(古今東西の名作が無料で読めるこのシステムは素晴らしい!)から
ダウンロードして愛用の電子手帳(SHARPパピルスN8100,このカラー手帳は使える!)に移し、
電車の中で読み続けたのである。
私の読んだのは与謝野晶子訳だが、谷崎潤一郎、瀬戸内寂聴、円地文子らの現代語訳は
もっと読みやすいらしい。
ところで読み終えた私は、かなりの欲求不満に陥ってしまっている。
なぜなら、恋人とその親友の二人の男性との三角関係に思い悩み、
宇治川への投身自殺まで考える美しいヒロインの悲劇のてん末が展開される
一番はらはらドキドキする場面で、突然この小説は終わってしまっているからだ。
「そんなバカな! ここで終わるとは何かの間違いではないか。絶対納得できない。
もし続きが存在しないなら自分で書いちゃうぞ。」と本気で思いこんだ。
そこで「日本文学大事典」(新潮社 全8巻)で調べたところ、やっぱりありましたね。
何時代か知らないが、作品の結末に納得できない私のような人間が、自分で書いてしまったらしい。
うーん、一刻も早くそれを読みたい。
実は「源氏物語」の研究で有名な本居宣長も途中の物足りない場面を補足するために
勝手に作った段落が存在するという。うーんそれも読みたい!
とにかく「源氏物語」とは興味の尽きることがない偉大なる小説なのである。
しかし、世界に誇るこの名作は、中学生や高校生が読んでも本当の面白さは理解できないだろう。
人生経験を積んで、人情の機微が十分に分かる年になってから読むべきだと思う。
002 憂国 三島 由紀夫 島由紀夫はノーベル賞を受賞してもおかしくない実力の小説家だったと私は思う。
割腹自殺を遂げたのは昭和45年11月25日。
大学で国文学研究会に所属していた私は、その衝撃の一日をまだ色濃く記憶している。
自衛隊のバルコニーで演説をしている三島の姿と怒声は、今もありありと思い描くことができる。
翌朝の朝日新聞第一面の写真には、三島の生首が転がっていた。
あの頃に比べると今の時代はぬるま湯のように平和だとつくづく思う。
そのころ学生運動に無関心ではいられなかった私にとっては、三島は思想上の「敵」であり、
大江健三郎は「同志」だった。
街の居酒屋で太宰治の評価を巡ってノンポリ学生とケンカしたこともあった。
「今、行動しようとしない者は、無知か不能か卑怯のいずれかだ。」と言うのが私の口癖だった。
本当に純粋で愚かで未熟な青春だった。文学や政治そのものに関心があるのではなく、
そのようなものに熱くかかわっている自分の姿が好きだったのであろう。
35年後の今、ゆっくりと読み返してみたいと思う作家は大江健三郎ではなく
三島由紀夫であるのはなぜだろうか。
中でも「憂国」は三島の最大の傑作だと私は思う。
人間の究極の死に方が描かれていて美しくかつ恐ろしい。
人生観のまだ定まらない青少年は絶対に読んではいけない一冊である。
003 セブンティーン 大江 健三郎 大江健三郎の作品の中に、特殊な理由から私たちが目にすることができないものが二つある。
一つは「夜よ、ゆるやかに歩め」である。
なぜか本人が自分の著作から排除した作品である。
大江の愛読者だった私は、大学のころにこの本を図書館から借りて読んだ。
大江らしからぬ淡々とした文体に違和感を覚えた。要するに駄作だったのだ。
確かに、これは抹殺したくなる作品だったのだろうと憶測している。
もう一つの幻の作品は「政治少年死す(セブンティーン第二部)」である。
17歳の少年が社会党の浅沼委員長を演説の壇上で刺殺した事件をモデルとして書かれたもので、
その表現が右翼を激怒させたという。
当時は、深沢七郎の「風流夢譚」が皇室を侮蔑しているとして、憤激した愛国党の少年が、
中央公論社の社長宅を襲い、お手伝いさんを刺殺するという事件も起こっていた。
「政治少年死す」も右翼から激しく批判され、以来私たちは読めなくなったのである。
というわけで、今私たちが読める問題作として「セブンティーン」があるわけだ。
17歳を過ぎてから読むといいのかもしれない。
004 クロイツェル・ソナタ トルストイ 文学が音楽を嫉妬した作品というべきか。偉大なるヒューマニストであるトルストイが
ベートーベンの名曲「クロイツェル」を官能的すぎるとして非難した小説である。
妻への愛が嫉妬に変わり、ついに殺人にまで及んでしまうという、小説としては楽しめる作品である。
だが読み終えて私はベートーベンの「クロイツェル」の方へ関心が移ってしまった。
それほど非難されるような堕落した音楽とはどういうものなのかと、
早速CDを買いに街へ走ったのであった。聴いてみた。
うーん、なるほど。偉大なる禁欲者トルストイの言うとおりでした。
名曲「クロイツェル」の妖しく官能的な響きを私は目のくらむような思いで聴いたのだった。
そしてかくも感受性の鋭いトルストイとはすごい人なのだと改めて感心するばかりであった。
005 蝉時雨
(せみしぐれ)
藤沢 周平 NHKで原作に忠実にドラマ化された。
それを見て、その情緒あふれた映像の醸し出す世界にしびれた人が多かったのではないだろうか。
私もその一人である。
物語自体は単純で淡々と展開するのだが、
人物たちの微妙な心理の綾がずしりと伝わってくるのはどうわけだろう。
役者の魅力か、原作の持つ主題の力か、監督の演出の上手さか?
この感覚は「北の国から」に似ている。とにかく心を癒される時代劇である。読むベし。見るべし。
006 砂の女 安部 公房 蟻地獄のような砂の底に閉じ込められて見知らぬ女と暮らす・・・
果たして主人公は生還できるのか?
世界文学史に名を連ねるべき傑作だと私は思う。
この小説が世界中に翻訳されて多くの人に愛読されているというのも当然だろう。
奇抜で魅力的な場面設定や必然性のある物語の展開など、何から何まで完璧である。
カフカの「変身」よりはるかに上質で面白い。
中学生でも読めないことはないが、この小説が啓示する人生の不条理感に共鳴するためには
もう少し経験を積まないとダメだろう。高校生以上にお勧めである。
007 赤ひげ診療譚 山本 周五郎 山本周五郎は自分の作品に登場する貧しく愚かな庶民たちを非難も礼讚もしない。
しかしただありのままに語る作者(話者)の視線の温かさがこの上なく心地よい。
さらに作品の底に流れるヒューマニズムは非常に奥が深い。
さりげない筆致で人情社会を描いているようでいて、
時折ぞっとするような人生の深淵を垣間見せるのだ。
本作品は、江戸時代に貧しい人々に治療を施した小石川療養所の
若い医者の変容を感動的に描いた物語である。
しかし中学生に薦めるにはやや躊躇する。
人間の「深淵」の刺激が強すぎることを心配してしまうからだ。
「季節のない街」「青べか物語」も同様で、私は大好きなのだが、
やはり中学生には3年ほど早いかなあと思ってしまうのである。
だがいつかは必ず読んでほしい作品群である。
黒澤明監督がこの作家の作品を好んで映画化したことも十分納得できるのである
008 人間失格 太宰 治 太宰治の一部の小説とつげ義春の漫画「無能の人」には
共通する魅力的な空気があることに気が付いた。
自堕落なダメ親父の呆れた自己肯定感がほのぼのと漂っているのである。
そしてそれは何らかの意味で心の傷を沢山負っている親父世代の共感を呼ぶ。
さて「人間失格」は相応に人生経験を積んだ人間が読めば面白い小説であろう。
「欺瞞」「背徳」「怯惰」「堕落」などの「悪徳」に満ちあふれ、
酒や薬や女に溺れ最後は廃人のように生きる男の生き様は、
ほぼ作者の生涯と重なるがゆえに読ませる力を倍増させる。
ところが私には全く理解が出来ないことがある。
それはなぜ本書が中高生向けの多くの読書推薦リストに名を連ねているのかということである。
本書の主人公が体現している悪徳と矛盾に満ちた人生観を青少年に伝える意義が何なのか、
私にはさっぱりわからないのである。
リストアップしている中・高の国語教師たちはこの作品の名声の高さに惑わされているのではないか。
東京都の某区の教育委員会の読書推薦リストにも載っているがこれも何かの間違いではないか。
この小説は文学に目覚めた早熟な中学生が
親に隠れてそっと読むようなリストにこそふさわしいのではないか。
うーむ、それともこういう人生を送ってはならないという反面教師としての効果を
期待しているのだろうか。
だれか教えてほしいものだ。
009 悪魔の辞典 アンブロウズ・ビアス 国語辞典の形を借りて人生の真実を強烈な皮肉を込めて表現した。
まさに悪魔の言葉で書かれた本と言うべきだろう。だから凡人は読まない方がいいと思う。
一つ一つの項目の解説は正鵠を射ており、目からうろこが落ちるような思いがする。
一気に人生の風景が変化する感じとでも言えようか。
これに比べるとあの近代日本文学の天才と謳われた芥川龍之介の「侏儒の言葉」でさえ、
とろくて物足りない感じがするほどだ。
本書を国語や道徳の授業で教材として扱ったら刺激的で面白いだろうと思うのだが、
普通の中学生には毒が強すぎるだろう。
だが思春期のどこかで、こういう逆説的な人間観を知って
ショックを受けておくことは有意義だとも思う。
なおビアスの短編集もとても怪しくて興味深い。
中学生には早過ぎる31冊
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